2006年01月10日

癒しの楽器 パイプオルガンと政治/草野厚

東京芸術劇場大ホールの舞台後方には、2台で3タイプ(ルネサンス・バロック・モダン)の音を持つ回転式のパイプオルガンがある。
世界初というこの回転式、背中合わせになった2台のオルガンがコンピュータ制御によって忍者屋敷の回転扉のようにぐるりとまわるのだ。重さは約70dだそうで。

ある時ゲネプロのために私が舞台に出ていくと、このオルガンがなんと横を向いたままになっているではないか。
どうやら楽器を載せている回転盤が回転途中でストップしてそのまま動かなくなってしまったらしい。
その脇でスタッフらしき数人が上を見上げたりオルガンに手をかけたりして、何やら話している。
なぜそのような珍事が起きたのかは、その後この本を読んで納得した。
そしてそれは珍事ではなかったようだ。



バブル期、多くの地方自治体がパイプオルガンを導入した。
いま、その多くは「宝の持ち腐れ」である。特権的な一部の演奏家しか利用できなかったり、故障だらけで法外なメンテナンス費用が毎年かかったり、税金で買ったことを十分に認識していないとしか思えないケースがたくさんある。
そして、オルガンの機種選定や音楽ホールの運営委託に於いても、国立大学教員などによる不明朗な動きが数々見られる。
クラシック音楽の世界も腐敗と無縁ではないのだ。
(表紙カバーの返しより)


筆者は公共政策や政策決定論を専門とする大学教授。
そして忘れてならないのは、筆者がオルガン愛好家であるということ。
パイプオルガンという意外な視点から文化行政、学閥や演奏家団体などの排他的かつ閉鎖的な組織の問題点を洗い出し、現在の日本のメジャーな問題点へと結びつけた。
著名な音楽家・演奏家らの実名を「グレー」として挙げているのも、この筆者でなければできなかったことであろう。
誘導的とも思える記述は多数見られるが。


本書のもう一つの狙いは、一般の人がほとんど触ったことのない楽器をより身近なものにしようというものである。
これまでのオルガン普及活動が専門家を中心に上から行われてきたとすれば、本書はゲリラ的な下からの運動の一つである。
 (あとがきより)

その“ゲリラ的な下からの運動”が良い方法であるとはあまり思えないのだが(笑)、
オルガン愛好家である筆者の「公共のオルガンはもっと活用されるべきだ、誰でも触れるべきだ」という思いには強く共感した。
プロの奏者によるバッハやフランクなどのクラシックだけがオルガンではないのだ。
地域のオルガンスクールの発展を願う。

癒しの楽器 パイプオルガンと政治癒しの楽器 パイプオルガンと政治
草野 厚

文藝春秋 2003-01
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後味の良い本ではないが、私がパイプオルガンを益々好きになったことは確か。
読んで良かった。
posted by どみ at 23:59| 埼玉 ☁| Comment(2) | TrackBack(1) | クラシック音楽の本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
読み手が置かれた立場によってそれぞれ受け止め方が大きく違ってくる本ですよね〜。オルガン業界関係者には感情的に(筆者もかなり感情的だし)受けが良くない本ですが、公共ホールに税金を使ってオルガンを設置するにあたっての内容等が一般に知られるようになったというところに、この本の出版価値があると思います。
Posted by えり at 2006年01月11日 08:34
えりさん。

事実を中立的な立場から報じるならまだいいにせよ、立場にちょっと偏りが(それこそ感情的に)あるようなので、ここに書かれていることは本当に事実だろうかと、勘ぐってしまいたくなる。(笑)

一方で、地域のオルガンスクールの様子は本当に興味深く読みました。
埼玉県内ではこういうの開講していないかしらと、ネットで調べてみたりしましたよ。未だにオルガンを習ってみたいと思っていますので。(笑)


この本に副題をつけるとしたら
  −−G大への復讐−−  でしょうかね。(笑)
Posted by どみ at 2006年01月12日 00:11
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癒しの楽器 パイプオルガンと政治
Excerpt:  移動中の電車の中で少しずつ読み進めていた一冊をやっと読了。草野厚・著『癒しの楽
Weblog: ねこちぐらな日々
Tracked: 2006-01-11 08:26
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