2006年11月09日

本当に切れました。

あれは忘れもしない、とあるお祭オケの演奏会のことだ。
私は後ろのほうのプルトでシンフォニーを弾いていた。
3楽章の時に、私の前で弾いているおじさんが演奏中にも関わらずなんとこちらをぐるりと振り返ったのだ。
そして自分の楽器を差し出して口パクで言うではないか。「ゲン、キレチャッタヨ」と。

あぁ、ついに、私にも途中退場のチャンス到来!


説明しよう。
弦楽器の弦は、演奏途中にまれに切れることがあるのだ。
これはもうしょうがないのである。誰が悪いわけでもなく切れる時は切れるのだ。
そんな時は楽器を舞台上や舞台袖の予備楽器に交換するか、切れた弦を張り替えるために一度途中退場しなければならない。
舞台袖に近いところに座っているならさっと出られるが、オーケストラというのは夜祭で売られるヒヨコのように狭いところにひしめきあっているので、中にいると出ようにも出られないのだ。

そこで人は座ったままで、楽器だけが移動することになる。
弦が切れた楽器を後ろの奏者の健康な楽器と交換し、弦が切れた楽器を舞台袖に近いところに座っている人の所へリレーして送るのである。(楽器が帰ってくるまでは他人の楽器を弾くことになる。)


今回私はアンカーの大役を仰せつかったのである。
一度仰せつかってみたかったのである。
だって、自分のところに楽器がまわってくるなんて珍事だもの。

弦がぶら下がったおじさんの楽器を抱えて、わくわくどきどきの一時退場。
袖にひっこんでみると、お祭オケだったせいか(?)予備楽器が用意されておらず、また舞台袖には誰もいなかった。それに驚いた。拍子抜けした。私一人なのである。
「切れちまったでよ〜」なんて鼻歌を歌いながら、弦を交換。
舞台袖で自分がのっている(はずの)本番を聴くのも珍事である。
なかなか良い音じゃないの、もっと褒めてあげなきゃーと誇らしく思ったり、どうせ私がいないからうまいんだわと僻んでみたり、である。

交換後に舞台に入るタイミングはどうしようかなと迷ったが、フォルテシモになるのを待って突入。
わくわくしつつ指揮者とは絶対目を合わせないようにする。
照明さんがスポットライトくれたらどうしようと思ったが、残念ながらそんなサービスはなかった。
自分の席に座り、おじさんを弓でつついて楽器を交換し、イベント終了。この間3分ほど。
あ〜おもしろかった、という感じである。


しかし、珍事は4楽章で再び起きた。
一度集中力を切断されると取り戻すのは難しいなぁと思いつつ弾いていたら、なんとおじさんがまた振り返るではないか。
「デーセン!デーセン!」と口パク。こんどは別の弦が切れたのである。
またかいな!

2回目ともなるとこちらの肝も据わっている。いつでも故障品ウェルカムである。
お客さんも“あそこは何やってんだ”って思ってるんだろうな〜、でもお客さんもよく見ておくがいいわなんて考えつつ退場した時に、すごいことを思いついてしまった。

せっかくこうして一人で出てこられたんだから、茶でも飲んで少しゆっくりしてみようか。
喫茶のおばちゃんの所で「も〜アタシ嫌んなっちゃったァ〜」とか言えばコーヒーくらい出してくれるだろうか。
楽譜の残り1ページになったあたりで戻れば、いいんじゃないか。
最後のジャーンが弾ければ満満足だよなぁ。

その後私がどうしたか、ここではヒミツである。


終演後、私に珍事をプレゼントしてくれたおじさんからは“お詫び”として「宴会いつでもご招待」と、お客さんからの差し入れというところてんセットをもらった。
2度あることは3度あることを期待してます、と私は丁寧にお礼申し上げた。


後日、o\お客様から事務局にこんな苦情が寄せられたという。
「演奏の途中から舞台に入ってきた女性がいたが、自分の演奏会に遅刻するとはどういうことか。」


…遅刻じゃないんです!
posted by どみ at 23:59| 東京 🌁| Comment(13) | TrackBack(0) | へっぽこの仕事周辺 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「おじさんを弓でつついて…」というくだりで思わず笑ってしまいましたが、
目立たないように知らせるには、それが一番なんでしょうね。
燕尾服の尻尾を引っ張る訳にもいかないし。
Posted by かわ。 at 2006年11月10日 00:53
久々のネタ追加、お待ちしておりました(^o^)

途中退場したどみさんは、お茶で寛ぐどころか
がっつりご飯を食べて昼寝もしそうですね。
あ、御曹司くんの散歩も済ませそう(笑)

途中退場、自分も目撃したことがありますが
トイレじゃなかったのね〜(^^;
Posted by まめたろう at 2006年11月10日 01:36
いつも飄々としているどみさんも、事務局からの伝言にはきれちゃいましたか(笑)
Posted by そら at 2006年11月10日 09:08
おおー、同じ舞台で2度も弦が切れるとは!珍しいですね。

珍事といえば、以前チェロ・コンチェルトやった時、2楽章の途中でソリストの弦が切れてしまった事がありました。舞台も客席も動揺しましたが、ソリストはササッと一旦袖に引っ込んで帰ってきて、舞台の上で解説付けて弦を替えるというパフォーマンスをしてくれました。そしてその後何事もなかったようにまた最初から最後まで演奏し切ったのには感動しました〜。

また次回大役が回ってきたら、事情判らないお客さんに向かって舞台でパフォーマンスすると良いかもしれませんよ〜(笑)
Posted by もり at 2006年11月10日 13:34
おお、どみさんも経験済みでしたか。
見るだけならたくさん経験しておりますよ。
一度、コンマスのが切れて、ヴァイオリンが次々と後ろへ…
あれ、見てると、運動会の「大玉送り」に似ています。
Posted by ensemble at 2006年11月10日 15:01
「遅刻じゃないんです」というところで、笑ってはいけないんですが笑ってしまいました(笑)。

相変わらず話の組み立て方や表現が上手いですね、どみさん!
Posted by みりおじ at 2006年11月10日 22:02
同じく、最後のくだりで笑っちゃいました(^^;
Posted by castle at 2006年11月11日 13:49
はじめまして。こそっとブックマークさせていただいてました。
(ルピシアのお茶が好きなので…)
私も舞台の上で「切れた」経験があります。それもコントラバスのDの弦。
どうしたかって?最後の曲だったので素知らぬ顔をして弾き続けました。もちろん音は抜けるのですが。
たまたまバチン、と全部切れてしまわず傍目には繋がっているように見えたのが幸いしました。
今思い出しても背筋がヒヤッとします。
(初めてのコメントなのに長々すみませんでした)
Posted by のあち at 2006年11月11日 18:57
弦が切れてしまったら退場して終わりだと思ってました。復活できるんですね・・・!
Posted by at 2006年11月11日 19:10
遅刻だなんて・・・ひどい苦情!
笑うに笑えないね!
私も、一度切れたことがあります。
楽器を回そうとしたのですが、後ろの子が気がつかなくて悲惨でした。
たしか、第九の1楽章の1ページ目あたりでした。
あと、バンダでチェロの子が出た時も・・・
客席にいた彼女のお母さんが聞いた周りの人の会話
ああ、かわいそうに、弦が切れたのね!いや、トイレかも・・・などと散々だったようです。
PS.あり得ない事・・・の報告レス付けてますので、よかったら読んでくださいね!
Posted by balooのママ at 2006年11月11日 22:16
それでいいのか(笑)。
このまえ、裏どみさん(と思われる)ところにお邪魔しましたが、こちらとはがらりと違う雰囲気に邪魔しちゃいけないと静かに退散いたしました。。。
Posted by akisute at 2006年11月11日 22:20
私は自分で弦を切って自分で出て行った事があります。
ちょうど一番舞台袖に近い所に座っていたので切れたと同時に立ち上がって退場しました。
ショスタコの交響曲のクライマックスのちょっと手前、これから盛り上がるぞという時に一人だけ寂しく出て行きました。
でも戻る時が・・・
エイヤっと気合いを入れて舞台に戻りましたよ。

それと前の方に座っている時に私の弓が突然壊れた事がありました。
その時は弓が次々と送られて行きましたが最初に手渡した女性はいきなり弓を渡されて目を白黒させていました。
弓のリレーなんて無いですからねえ。
Posted by にのじ@ばよりん at 2006年11月12日 00:45
コメントをくださったみなみなみなさま。
どうもありがとうございます。へっぽこどみです。
春雨スープを飲む姿を犬に見つめられながら返信いたします。

 >お茶で寛ぐどころかがっつりご飯を食べて昼寝もしそうですね。

ハイ、昼寝したあとはおうちに帰ってお洗濯してパンパンして干して、お風呂とトイレも洗って、ホールに戻ったらもう終演で誰もいなくて、あらー私の楽器はどこー?ってね。(笑)

 >事務局からの伝言にはきれちゃいましたか(笑)

いや、私も事務局も大爆笑でした。
「そのお客さん、寝てたんじゃねーか」って。(笑)

 >事情判らないお客さんに向かって舞台でパフォーマンスすると良いかもしれませんよ〜(笑)

次に弦が切れた楽器が回ってきたら、今度はマイクを持って「説明しよう。弦楽器の弦は…」とやってしまいましょうか。演奏をさしおいて。

 >コンマスのが切れて、ヴァイオリンが次々と後ろへ…

おぉ、コンマスとなりますと楽器も超級でありますなぁ。
そんな楽器の弦を張り替えるのはちょっとコワイですね。
ほら、もしキズでもつけちゃったりしたら…。(泣)

 >相変わらず話の組み立て方や表現が上手いですね

ハイ。人生ハッタリとゴリオシですから。(意味不明)
あ、でもここにはウソは書いてません。うふふ。

 >最後のくだりで笑っちゃいました(^^;

私の人生笑われてナンボです。

 >私も舞台の上で「切れた」経験があります。それもコントラバスのDの弦。

のあちさん、ブクマありがとうです。
コンバスの弦って、いろいろ再利用できそう。太いがゆえに。
ヴァイオリンの弦が何本できるか…。
デポジットとかとったらいかがでしょうかねぇ。

 >弦が切れてしまったら退場して終わりだと思ってました。

退場して終わってもよいなら、舞台の弦楽器奏者は誰もいなくなっちゃいますよ。
みんながポケットにハサミを隠し持って、ここらへんで…というあたりでバチンとやってさよならおつかれお先に〜ってね。いや〜ひどい職場だ。ありえん。(笑)

 >第九の1楽章の1ページ目あたりでした。

1ページめというと、これからヤマという時ですよねぇ。
私はまだ切ったことがないのですが、自分の楽器がリレーされていくって、考えてみたらちょっと不安ですねぇ。プレーヤーどうしとは言え。うーん、気をつけよう。(笑)
レス、先日拝読しました。リニューアル&パワーアップおめでとうございます!

 >裏どみさん(と思われる)ところにお邪魔しましたが…

あれっ、そんなのあったっけ?(笑)

 >弓のリレーなんて無いですからねえ。

見たことも聞いたこともないっす。
リレーしているうちにごっちゃになって、誰のが誰のだかわからなくなりそうだなぁ。
Posted by どみ at 2006年11月12日 02:18
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